歴史的偉業に思いをはせる。


“弟”の図書館から貸りた大きな本を片手に、彼女は夜空を見つめていた。
本は大きさの割に薄く、表紙には美しい銀河の写真−−どうやら宇宙がテーマの写真集のようだ。
やがて、彼女は色鮮やかな惑星の写真や、そこに添えられた「土星の質量」といった読み物をバラバラと読み飛ばし、何とも地味な −「モノクロの落花生」と言われても違和感のない− 天体の写真が載っているページを開き、微笑み、再び夜空を見た。

MUSES-C」そう名付けられた探査機が、8年前の今日(5月9日)に、はるかかなたの小惑星へ向けて旅立った。
そして、たった一機で小惑星の謎に挑み、身を文字通り粉にして、その天体の物質という土産まで持ち帰った。
混じりけのない感動をくれた「MUSES-C」、またの名を「はやぶさ」。

「宇宙の神秘への『挑戦』がこの奇跡を生み出した」。


この部分を読むためだけに貸りてきた本を −結局その部分以外は頭に入らなかったのだが−明日には図書館へ返すべく、彼女 −− 折節青花は丁寧にカバンへとしまった。